不純な理由で近づきました。
しばらく無言のまま紅茶を楽しみ、席を立つ。
「わたし、ちょっと本を探して来ますね。
暇だったら先に帰っていて下さい」
「あぁ」
まだ席を立つ気がなさそうな恭くんをそのままにして、わたしは文庫本の方に向かった。
何かいい本あるかな……
前に読み終わったのはファンタジー小説。
それは梓さんに薦めてもらったものだったりする。
梓さんの薦めてくれるものって全部面白くて、外れたものがないんだよね。
この前兄さんに薦めてもらったのは……うん。
兄さんの名誉を守るためにも黙っておこう。
しばらくブラブラと見回す。
タイトルや中身も見てみるけど、惹かれるものがない。
今日は諦めるしかないかもしれないなぁ。
ふぅ、とため息をつくと、後ろから影が差した。
びっくりして振り向くと、意外に近いところに見覚えのある制服があって。
思わず前に向き直ってしまった。
あぁ、心臓によろしくない。
「何探してんの?」
聞こえた声にピク、と肩が揺れる。
「あ、いや、特にこれというのは……
面白そうなのはないかな、と見ていただけなので」
「で、見つかった?」
「いえ、」
あぁ、どうしよう。
かなり心臓の鼓動が早い気がする。
こ、声が…こんな近くで、声が……
ありきたりな表現で申し訳ないけど、腰砕けそう。
それほどまでのセクシーなバリトンボイス。
ここまでくると目の保養、ならぬ耳の保養、を越えてもはや毒の領域までいってると思う。
依存してしまいそうで怖い。
「じゃあこれ。俺の好きな本」
スッと後ろから腕が伸ばされて。
恭くんの細長い綺麗な指が一冊の本を抜き出す。
少し厚めで、真っ白な表紙に青い字で『blue sky』と書いてある本。