不純な理由で近づきました。








「どんな本なんですか?」



これだけじゃよく分からないので、聞いてみるけど。



「知ったら面白くないだろ。だから秘密」



とクスリと笑ってわたしに本を持たせた。


ちょっと意地悪そうな笑顔に、不覚にもドキッとしてしまった。


それにしても、この本そんなに面白いのかな。


ちょっと迷ってからわたしはこれを買うことにした。


お会計として持って行くと、梓さんが珍しく嬉しそうに笑ったので少し驚いてしまった。



「梓さん、また来ますね」


「……あぁ」



それだけ言ってまた本の整理に戻る梓さん。


これはいつものことなので、気にせず恭くんと扉に向かう。


恭くんは気にしてたっぽいけど。


わたしも最初はそうだったなと、ぼんやり思った。



「……そっちの子も、またおいで」



扉が閉まる直前、微かに聞こえた梓さんの声。


思わず恭くんと顔を見合わせて笑ってしまった。



「まだ日が落ちるのは早いな」


「そうですね」



空を見上げればちらほらと星が見える。



「でももうすぐ夏ですし、そのうち日も長くなりますよ」


「だな」



とりとめもないことを話しながら駅に着き。



「じゃ」


「はい。また学校で」



手を振ってわたしは恭くんと別れた。


なんだか、すごい濃厚な日だったと思う。


だって恭くんとカインくんと、友達になろうって言われてまだ二日。


つい一昨日の出来事。



……全然実感が湧かない。


でも不思議。一緒にいても違和感がないんだから。



まだきっと、わたしが知らないことはいっぱいある。


恭くんのことも、カインくんのことも。


それでも、二人ともっと仲良くなって、ちゃんと友達だって胸を張れるようになりたい。


ふわふわ、ほわほわ。



「ふふっ……」



温かな気持ちで満たされた心を抱えながら、足取り軽く、わたしは家に帰った。







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