不純な理由で近づきました。




授業中もなんとなく一ノ宮くんに視線をチラリ。


それは何かしゃべってくれるかな〜、なんて期待をこめて。



……まぁそううまくいくわけもなかったけど。


結局、今日も一言もしゃべらないまま放課後を迎えてしまった。


しゃべらないというよりも、わたしが聞けないまま、なんだけど。


それでも声を聞かせずに一日過ごすって一ノ宮くん、どんな性格をしているんだ。


無愛想とか口下手とかそっけないとかシャイとかでは言い表せないと思うんだけど。


今日は残念だった。


まぁ明日明後日とまだ機会はあるし、と思い帰りの準備を始める。



「おーい、白崎ー」



さぁ帰ろう、と席を立ったと同時に担任に呼ばれて振り返る。



……嫌な予感。


嬉しくないことに予想通りで、先生に授業のノートを職員室まで運ぶように頼まれる。


見た目が地味というか優等生というか。


とにかくこういう格好のせいで、こういう類いの頼まれごとが多いんだよね。


思わずもれてしまいそうなため息を我慢して、わたしは了解の返事をした。



「よし、じゃ頼むぞー」


「はい」



先生の後ろ姿を見送ってからノートに目を移すと、意外に量がある。


これはカバンを置いて、一度戻ってこなきゃだなぁ。



「あ、他のクラスのノートまである」



あの人の数学の授業って分かりやすいから人気なんだよね。


性格もいいって聞くし。


ただ人使いが荒いのがまことに残念。


人のいなくなった教室に、わたしのため息が響く。



「うわ、見た目通り重い……」



女の子にこんな体育会系の仕事を押し付けないでほしい。


しかもわたし見たいなインドア派には特に。


ノートの重さに眉をひそめながら職員室に向かう。






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