不純な理由で近づきました。




ジワリ、と滲む視界を塞ぐように瞼を閉じる。


それと同時に優しく頭が引き寄せられた。



「ぇ、恭くん……?」



何が、起きてるの?


思わず閉じたはずの瞼をしばたたかせる。



「これなら、視線とか分かんねぇだろ」



ポンポン、と温もりがわたしの頭を撫でた。



「怖かっただろ?それなのに、一人でよく頑張ったな。
泣けばいいよ。俺、目も閉じてるし」



な?と言われて、ポタリとわたしの瞳から涙が落ちた。


恭くんの優しい、柔らかい声が、わたしの心を震わせる。



「ふっ…うぅ……ぐすっ……」



これ以上、迷惑なんてかけたくなかったのに。


優しいよ、恭くん。


優しすぎるよ……



思わず恭くんの背中に手を回す。


そのとき、ピクッと体が揺れたような気がしたけど、恭くんは何も言わない。


ギュッと制服を握ってすがり付くように泣くわたしに、そのまま、ただ頭を撫でてくれた。



……兄さんも、わたしがこうやって怖がって泣いていたとき、抱きしめてくれたな。


兄さんとは体温だって香りだって違うのに。



どうしてだろう……この腕の中は、不思議なぐらい落ちつく。



「恭くん……」


「ん?」



心なしか、いつもより柔らかいトーンの声。



「…ありがとう………」




恭くんのおかげで、一人で恐怖に怯えなくてすんだ。


落ちつくことが、できた。



「ありがとう……」



そのままわたしは目を閉じ。




そして、意識を手放した。








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