不純な理由で近づきました。
廊下を歩くわたし。
すれ違う人はみんな帰り支度をして玄関に向かっている。
あぁ、わたしも帰りたい……
特に急ぎの用事とかがあるわけでもないけど。
むしろ何もないけど。
強いて言えば家に帰って早くわたしの癒しの源である声を聞きたい。
部屋で音楽を聞いたり、声優さんの声を聞いているのが至福の一時なんですよ。
あ、でもアニメのオタク?とかではないので、ここ注意です。
階段をおりて角を曲がる。
と同時に何かにぶつかってわたしは尻餅をついてしまった。
持っていたノートが廊下に広がる。
「った……」
視線を上げてみると、そこには一ノ宮くんと枢くんがいて。
位置的にわたしは一ノ宮くんにぶつかってしまったらしい。
無言が怖い。
「あらら、何やってんの恭」
ノートを集め出す枢くんの姿とその声に我にかえってわたしもノートを拾う。
あぁ、それにしてもこんなに近くで枢くんの声が聞けるとは。
なんのラッキーだろうか、これは。
「はい」
「あ、りがとうございます」
ノートを受けとるとニコ、と枢くんは笑った。
王子スマイルがわたしに向けられていることに、現実感がなさすぎて戸惑う。
面食いじゃないわたしでさえカッコイイと思うんだから、他の女子のみなさんはすごいんだろうなぁ、と枢くんの顔を思わず観察。
「ほーら、恭も謝んなって」
「あ、いえわたしがぼんやりしてたのが悪いんで……」
謝罪なんて、と言おうとしたとき、スッと落ちていた残りのノートを差し出されて。
顔を上げると一ノ宮くんの顔がそこにはあった。