不純な理由で近づきました。




「……ナルちゃん、こんな時間にそんなに食べるの?」


「最後の四つはただの腹いせー」



いつも仕事のムチャは全部オレにくるからー、と言ってくつりと笑う。


最後の四つって、お酒以外は腹いせってことだよね。


小さいころから思ってたけど、ナルちゃんって見た目と違って黒いよね。


まぁそれは兄さん限定で、わたしには優しいお兄さんだけど。



「お菓子は全部りっちゃんたちで食べればいいよー」


「うん。じゃあありがたくいただくね」



冷蔵庫からお茶を取り出してナルちゃんの隣に座る。



「あ、ラベンダーだ」


「え、うそ。なんで分かったの?」



そんなに長風呂してた……ね。


でもいつもよりは短めだったんだけど。


分かるよー、と言って笑いながらナルちゃんはわたしに近づき匂いを嗅ぐ。


な、なんか恥ずかしい……



「うん。りっちゃんからラベンダーの香りするよ。
それに、今日の入浴剤はラベンダーにしたらーってアドバイスしたのオレだし」



あ、やっぱり兄さんじゃなかったんだ。


少し失礼だとは思うけど、ナルちゃんにそう聞いてヘンに納得してしまった。



「まぁ、オレのアドバイスなんか聞くかーって言ってたんだけど」



最終的には聞いたみたいだねー、とくつくつと笑うナルちゃんにわたしも笑みが浮かぶ。


なんだかんだ言って兄さんはナルちゃんのこと信頼してるし、大好きだから。



「りっちゃん、明日大丈夫?」



唐突に聞かれた質問に小さくドキリと心臓が跳ねる。


ナルちゃんはいつも核心をつくようなことを聞くからなぁ……



「うん…ちょっと不安、かも」



大丈夫、なんて言ってもナルちゃんには通じないから。


素直な気持ちを口にすると、そっと体を引き寄せられた。


ふわり、と感じたのは甘いバニラのナルちゃんの香り。






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