不純な理由で近づきました。
ドキドキと胸が高鳴る。
もっと……もっと、あの声が聞きたい。
普通に話したらどんな感じなんだろう。
感情が入っていたら?
嬉しいときの声は?
悲しいときの声は?
怒ったときは?
照れたときは?
……知りたい。
もっとあの声を聞きたい。
一ノ宮くんのことを、知りたい。
自分でも驚くぐらいに強くそう思った。
その日は結局、どの声を聞いても一ノ宮くんの声が頭から離れなくて。
ラジオもイヤホンで音楽も聞かずにぼんやりしていたわたしを見て、兄さんが
『明日は雨か……』
なんてかなり真面目な顔で言うから一発蹴っておいた。ほっとけ。
夕飯を食べ終わってわたしは自分の部屋のベッドに倒れこむ。
お気に入りのクッションを抱え込み、目を閉じると甦ってくるのは一ノ宮くんの声。
初めて近くで正面から見た綺麗な顔と、耳に残るバリトンボイス。
心が、踊る。
ドキドキする心臓を静めるように胸に手を当てる。
「はぁ……」
明日、話しかけてみようかな。
親しくなれば、あの声がもっと聞けるかもしれない。
少しの期待を胸に、わたしはお風呂に向かった。