不純な理由で近づきました。
聞きたいことはいっぱいあったけど、聞けるような雰囲気でもなくて。
「兄さん、どうしたの?」
「六花……六花……っ」
兄さん、声、震えてる……?
気のせいかとも思ったけど、だんだんとわたしの肩が湿っていって。
泣い、てるの……?
「兄さん、大丈夫?
どこか痛いところでもあるの?
それとも、何か、いやなことでもあった……?」
返事はなくて、代わりに腕の力が強くなる。
子供ながらに何かがあったんだってことは分かる。
でも、その『何か』が分からなくて。
こういうとき、どうすればいいのかも分からない。
「兄さん……大丈夫、だよ?」
大丈夫だよ、大丈夫だから、とわたしは何度も兄さんに伝え。
そして兄さんの頭を撫でてあげた。
兄さんが、わたしにいつもしてくれるみたいに。
「六花!!」
「母さん、父さん。ナルちゃんも……」
わたしの顔を見た瞬間、母さんは顔を覆って泣き出し、父さんとナルちゃんも泣きそうに顔を歪める。
わたしがこの理由を知ったのは翌日のことだった。
なんでも、わたしは世間で言うところのストーカー的なものをされていたらしく。
あの日、歩いていたわたしは薬で眠らされて。
そのストーカーさんの自宅に運ばれていたところを、たまたまそこにいたナルちゃんに助けられたらしい。
そんなことを聞かされても、実感なんてサラサラなくて。
ただそうなんだ、と思った。
「でも、わたしは大丈夫だったんだし、みんな元気だしてよ。ね?」
もう終わったことでしょ?と笑顔を見せると、みんなも安心したように笑ってくれた。
大丈夫。
だってもう全部終わったことで、きっとこれからはいつもの日常が戻ってくるから。
でも、そんなわたしの思いはあっけなく消えていった。