不純な理由で近づきました。




聞きたいことはいっぱいあったけど、聞けるような雰囲気でもなくて。



「兄さん、どうしたの?」


「六花……六花……っ」



兄さん、声、震えてる……?


気のせいかとも思ったけど、だんだんとわたしの肩が湿っていって。



泣い、てるの……?



「兄さん、大丈夫?
どこか痛いところでもあるの?
それとも、何か、いやなことでもあった……?」



返事はなくて、代わりに腕の力が強くなる。



子供ながらに何かがあったんだってことは分かる。


でも、その『何か』が分からなくて。


こういうとき、どうすればいいのかも分からない。



「兄さん……大丈夫、だよ?」



大丈夫だよ、大丈夫だから、とわたしは何度も兄さんに伝え。


そして兄さんの頭を撫でてあげた。


兄さんが、わたしにいつもしてくれるみたいに。



「六花!!」


「母さん、父さん。ナルちゃんも……」



わたしの顔を見た瞬間、母さんは顔を覆って泣き出し、父さんとナルちゃんも泣きそうに顔を歪める。



わたしがこの理由を知ったのは翌日のことだった。


なんでも、わたしは世間で言うところのストーカー的なものをされていたらしく。


あの日、歩いていたわたしは薬で眠らされて。


そのストーカーさんの自宅に運ばれていたところを、たまたまそこにいたナルちゃんに助けられたらしい。


そんなことを聞かされても、実感なんてサラサラなくて。


ただそうなんだ、と思った。



「でも、わたしは大丈夫だったんだし、みんな元気だしてよ。ね?」



もう終わったことでしょ?と笑顔を見せると、みんなも安心したように笑ってくれた。




大丈夫。


だってもう全部終わったことで、きっとこれからはいつもの日常が戻ってくるから。



でも、そんなわたしの思いはあっけなく消えていった。







< 82 / 257 >

この作品をシェア

pagetop