不純な理由で近づきました。



――――――――――――――――――
――――




「六花、無理しちゃダメよ?」


「分かってるよ、母さん。父さんも、そんなに心配しないで?」



無口な父さんだけど、さっきから視線がうろうろしすぎていて。


わたしを心配しているんだって一発で分かってしまう。


ご飯のときも新聞逆さまに読んでたし。


わたしが言ってあげるまで気づいてなかったみたいだった。



「行くぞ、六花」


「うん。じゃあ行ってきます」



行ってらっしゃい、と言う母さんと父さんの声に手を振って、わたしは兄さんと一緒に家を出た。




「兄さん……」


「どうした?」


「うん………」



気の、せい?


なんだか視線を感じる。


不安から繋いだ手に力を入れると、兄さんはぎゅっと握り返してくれた。



「おはよー」


「ナルちゃん!」



あいかわらずコンビニで野菜ジュースを飲んでいたナルちゃんに駆け寄る。



「おはよう、りっちゃん」


「うんっ」



ぽんぽん、と頭を撫でてくれる優しい手のひら。


ナルちゃんは、いつも通りだ。



安心する……


そのままとりとめもない会話をしながら、手を繋いで歩く。


でもやっぱり見られているような感じがして。


自然と口数も減って、つい、周りをキョロキョロしてしまう。



気のせい……気のせい、だよね?



「じゃあ六花。学校、頑張れよ?」


「でも、ムリはしちゃダメだからね?」


「うん……行ってきます!」



不安を笑顔に変えて、わたしは兄さんとナルちゃんに笑顔を向けた。



あのときみたいな、悲しい顔をさせないように。







< 83 / 257 >

この作品をシェア

pagetop