不純な理由で近づきました。
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「六花、無理しちゃダメよ?」
「分かってるよ、母さん。父さんも、そんなに心配しないで?」
無口な父さんだけど、さっきから視線がうろうろしすぎていて。
わたしを心配しているんだって一発で分かってしまう。
ご飯のときも新聞逆さまに読んでたし。
わたしが言ってあげるまで気づいてなかったみたいだった。
「行くぞ、六花」
「うん。じゃあ行ってきます」
行ってらっしゃい、と言う母さんと父さんの声に手を振って、わたしは兄さんと一緒に家を出た。
「兄さん……」
「どうした?」
「うん………」
気の、せい?
なんだか視線を感じる。
不安から繋いだ手に力を入れると、兄さんはぎゅっと握り返してくれた。
「おはよー」
「ナルちゃん!」
あいかわらずコンビニで野菜ジュースを飲んでいたナルちゃんに駆け寄る。
「おはよう、りっちゃん」
「うんっ」
ぽんぽん、と頭を撫でてくれる優しい手のひら。
ナルちゃんは、いつも通りだ。
安心する……
そのままとりとめもない会話をしながら、手を繋いで歩く。
でもやっぱり見られているような感じがして。
自然と口数も減って、つい、周りをキョロキョロしてしまう。
気のせい……気のせい、だよね?
「じゃあ六花。学校、頑張れよ?」
「でも、ムリはしちゃダメだからね?」
「うん……行ってきます!」
不安を笑顔に変えて、わたしは兄さんとナルちゃんに笑顔を向けた。
あのときみたいな、悲しい顔をさせないように。