不純な理由で近づきました。




お互い目を見たまま、恭くんはゆっくりとこちらに向かってくる。


わたしは金縛りにあったみたいに動けず、そのままで。


気づいたときには、ふわりとわたしのものではない香りと体温に包まれていた。




え、と………



「恭、くん…?」


「無理すんな」


「してない、ですよ?」


「じゃあ我慢するな」



サラリ、と髪がすかれる。


耳に届く声はどことなくいつもより優しげで。


なのに少し辛そうで、胸の奥がギュッとなった。



「が、我慢なんて、」


「充分してる。俺から見ると、白崎は一人でいろいろ我慢しすぎだ。

もっと、頼ればいい」



グラリ、と揺れる心。


でも、と心の中で呟くわたしがいる。



迷惑を、かけたくないの。


家族に、友達に、大切な人たちに。


あのとき、いっぱい迷惑を、心配をかけてしまったから。


そのせいで、みんなに辛そうな悲しそうな顔をして……


わたしはもう、あんなみんなの顔、見たくないの。



ポツポツと、小さな声が自分の気持ちを綴っていく。


今まで、こんなに自分の心をさらけ出したことなんてなかったかもしれない。



どうしてなんだろう……どうして、恭くんにはこんなに素直になれるんだろう。


恭くんの声、まるで、魔法の声みたい……






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