不純な理由で近づきました。



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……緊張する。


朝の日課である読書もはかどらない。


本を閉じて空を見上げる。


今日も相変わらず気持ちがいいぐらいの快晴。


兄さんの予想は外れたね、と朝兄さんを鼻で笑ってあげた。


そのときの兄さんの顔……思わず吹き出しそうになったことは秘密にしておいてあげよう。



「きゃああぁっ!!」




…………きた。


はっとすればいつもと変わらない光景。



「恭くぅんっ!!」


「カイン様ぁ〜〜〜っ」



困った表情で女の子の相手をする枢くんの姿も、ちょっと嫌そうに顔をしかめる一ノ宮くんの顔も、いつもと変わらない。


変わったとしたらわたし。


一ノ宮くんの姿を見ただけで、自然と胸が高鳴ってしまう。


自分で自分がびっくりだ。


あの声に、一瞬で魅了されてしまった。


今では枢くんよりも一ノ宮くんのほうが気になってしまう。


もちろん、枢くんの声も癒されるけど。



ガラリ、と教室に入ってきた二人に近づこうかと思ったけど、一足早く他の女子に先を越されてしまう。


思わず顔をしかめてしまったのは不可抗力だ。


邪魔されたあげく、あの甘ったるい声が耳に入ってしまったのだから。


仕方ない、この調子じゃあホームルームのあとの休み時間も無理そうだし、一限目後の休み時間にでも話しかけよう。


そう心に決めて、わたしは外に目を向けた。






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