嘘を重ねて。
『またお越しくださいませ』
店を出ると
私はタクにお礼を伝えた
「今日は‥‥ほんとにありがと。美味しかった」
するとタクは少し不満気に口を尖らせる
「俺の告白の事についてはなーんもないのー?」
「そ、それは‥‥っ」
言葉に詰まるとタクはクスクス笑って
私の頭にポンッと手を置いた
「冗談」
「‥‥っばか!!」
本気で焦った自分が恥ずかしくて
私は顔を背ける
するとタクはまたクスクス笑って
私の手を握った
「帰ろっか」
「うん」
たわいない話をしながら家路につく
これが幸せな時間なのかな
そう思ったりもした
“次は-・・・ーーーー・・・ーー”
「次降りるよー」
「はーい」
やっと電車を降りると
タクはスタスタと足早に改札を抜けた
「ユエー遅いー」
「ちょっと早いよタク 待ってよ」
改札を抜けた先で
手招きをしているタクの所へ走り出した時
‥‥目が合ってしまった
「‥‥っ」
視線の先に居るのは
「‥‥翔‥‥琉‥‥」
翔琉だった
辛くなる程に視線が絡み合う
逸らしたくても逸らせない
どのくらいの間見つめ合っていたのか
‥‥翔琉は何やら口を動かした
“ーー‥‥ーーーーーーー‥‥”
声が聴こえるような距離ではない
ただ、1つだけ
読み取る事が出来た言葉
“ごめん”
どうして彼は謝っているのか
分からない 分からないけど
胸がどうしようもなく苦しくなった
「ユエ」
「あ‥‥」
「あ‥‥じゃないよー。なに?どうかしたの?」
様子のおかしい私に気づいたタク
私の見ていた方を
一緒になって見ようとするので
慌てて首を振った
「ううん!!違う違う!!勘違いだったみたい」
ここで変な心配を掛ける訳にはいかない
そんな思いで必死に否定する
するとタクも納得したらしく
“なら帰るぞー”と言って歩き出した
「ちょっとタク‥‥待ってよー‥‥」
タクの背中を追いながら
もう一度さっきの方へと視線を向けてみる
‥‥だが、そこに翔琉の姿は無かった
‥‥ごめんの意味は、何なのだろう
それだけが気掛かりで
家に戻ってからも落ち着く事が出来なかった
そんな時、ふと浮かんだ
最後に会った時の翔琉の顔‥‥
この苦しい気持ちの正体は一体
何ですか?
寂しさに溺れていた私
救ったのは1人の男
愛されたいと願って
今こうして愛される
それなのに私の心を
こんなにも苦しめて
こんなに乱しているのは
‥‥その男じゃない。
《荒れる心》