嘘を重ねて。
“ガチャ”
部屋の中は相変わらず静まり返っていた
ここが私の本当の家なのに
まるで他人の家のような気すらしてしまう
「‥‥やっぱり帰ろう」
居心地の悪い空間から逃げる様に
部屋を立ち去ろうとしたその時
「あら‥‥結映。帰ってたのね」
奥の部屋の方から聞こえた
感情の感じられない冷たい声
反射的に振り向くと
そこにいる人物‥‥母と目が合った
「‥‥いらっしゃったんですね」
「ここは私の家よ?おかしくはないでしょう」
溜息混じりに返ってきた言葉
‥‥これが家族の会話なのだろうか
しばらく続いた沈黙を破ったのは
母の方だった
「結映、貴方‥‥今、男性と同棲してるんですって?」
「どうしてそれを‥‥っ!?」
何故その事を母が知っているのだろう
私は今まで男の事など
話した事は一度も無かったのに
私の反応を見た母は静かに口を開いた
「‥‥探偵を使わせてもらったのよ」
その告白は私の心をボロボロに壊した
怒りよりも悲しみの感情が溢れた
やっとの思いで絞り出した声は
心なしか震えていたと思う
「‥‥家族を相手に、探偵を‥‥使ったんですか」
「学校の先生から連絡を頂いたのよ‥‥最近、授業を無断で休んだりしていたそうじゃない。」
“ハァ…”と深い溜息を吐くと
追い討ちを掛けるように言葉を続けた
「それに、どうせだらしない方なんでしょう…
とにかくその人とはもう「貴方に何が解るんですかっ!!」」
ついに私の心は崩壊した
止めどなく溢れる涙と一緒に
色んな思いが頭を駆け巡る
「貴方に…ッ私の何が解るんですかっ」
「落ち着きなさい、結映」
「落ち着ける訳ないでしょう…!?」
完全に理性を失った私は
感情のままに叫んだ
「貴方は私を迷惑にしか思ってない!!
そんなに邪魔なら産まなければ良かったでしょう?…こんな家に私だって産まれたくなかった!!」
「結映…やめなさい、煩いわ」
「…っ!!」
こんなに叫んでも
こんなに訴えても
伝わらないのか。
…返ってくるのは冷ややかな返答だけ
最早この家に愛は無いのだろうか
私は家を飛び出した
「結映、待ちなさい!!」
母の言葉も無視して
私はひたすらに走り続けた
“ズシャ-ッ”
何かに足が引っ掛かり
体が地面に叩きつけられる
「痛っ…」
足を抉いたらしく起き上がれない
必死に立とうとするも虚しく
足はびくともしてはくれない