ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
突然の同居命令
◇◇◇
パタパタと走る私の足音が、薄暗い廊下に響いていた。
ここは、私、田丸夏美(タマル ナツミ)24歳が勤めるビール会社の3階。
時刻は、夜の8時。
いつもなら「お疲れさまです」と、とっくに退社している時間。
今日も一度会社を出たのだけど、
会議室の片付けを任されていたことを思い出し、慌てて戻ってきたところだ。
人気のない廊下を小走りで駆けて、小会議室Aの前についた。
ドアの下の隙間から、蛍光灯の明かりが漏れている。
やっぱり戻ってきて正解だった。
私が片付けなくても、誰かが気づいてやってくれたかも……。
少しだけそんな期待をしたが、
世の中そんなに甘くない。
夏真っ盛りの今は、少し走っただけで汗が流れた。
首筋を伝う汗を拭い、ドアノブに手をかけて……
私は固まった。