ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
あの世が見えかけた時、
白衣のポケットが震え出した。
スマホのバイブ音が、死にかけの私の耳にも届いていた。
久遠さんは、私の上に覆い被さったまま、
顔だけ離して、普通に通話に出る。
「何だ?
―― ああ。―― ああ。
―― は? 今、何て言った?」
電話をかけてきたのはどうやら、
にょにょ村部長。
にょ〜にょ〜言いながら慌てている声が、私の耳にも微かに聞こえた。
久遠さんの顔に、焦りの色が広がった。
勢いよく身を起こし、私から離れて、
スマホに向け声を荒げた。
「馬鹿野郎っ!
常温で混ぜる奴がどこにいる!?
おい、今すぐ逃げろ!
それはマイナス温度下でやらないと……」
彼が早口でそこまで言った時、
ドカンと何かが爆発する音が、
スマホから響いて聞こえた。