ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
消去法で彼を選んでしまったわけだが、
久遠さんだって男だ。
襲われないという保証は、どこにもない。
三国主任は「久遠なら大丈夫」
と言ってくれたけど、
“大丈夫”の根拠を教えてもらえなかった。
どうしよう……
走って逃げ帰るか……
また明日も出勤だから、逃げても無駄なのか……
玄関先で悶々と考え続けていると、
久遠さんが、誰かに話しかけている声が聞こえた。
「ミカコ、ただいま。
淋しかったか?」
一人暮らしだと思い込んでいたせいで、驚いた。
他にも同居人がいるらしい。
妹か友人か恋人か、ミカコが誰かは知らないが、
私以外にも女性がいるなら、
安心だ。
ホッとして靴を脱いだ。
「お邪魔します」と断り、
中に上がった。
廊下の角を一つ曲がると、
開け放したリビングのドアが見えた。
明るい光の灯るその中に足を踏み入れて、
ボストンバッグをドサリと落とした。