ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
椅子とテーブルがぎっしり詰まり、人間が入れる隙間は入口付近しかなかった。
僅かな隙間で、やっと肩から下ろされた。
ドア側には久遠さん。
ドアに背をもたれているから、
逃げ出すことができない。
腕組みして、不機嫌そうな顔で、私を見下ろし彼が言う。
「お前は誤解しているだけだ。
俺は騙していない。
堂浦の作戦は確かに聞かされていたが、それに乗ったことは一度もない」
久遠さんの瞳が揺れることはなかった。
真っすぐなその目は嘘つきの瞳ではないけど、
今の私には信じることができない。
懐疑心いっぱいで、言い返す。
「嘘つき!
私、しっかり騙されて、結果として堂浦さんの思惑通りになったもの!」
「結果としてそうなったとしても、過程は違うだろ。
夏美の前で俺は、常に平常通りの自分でいたつもりだ。
演技じゃない素の俺に、勝手にお前が惚れただけだ」