ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
ショックを受けていた。
本気で記憶にないような顔をしている彼と、
今思い返してもドキドキしてしまう私との温度差を痛感して。
唇を震わせ呟いた。
「ひどい……
ミカコさんを見つけた後のキスを忘れるなんて……
凄くドキドキしたのに……
ひど過ぎる……」
私に言われて、久遠さんはやっとあの日のキスを思い出した。
「ああ、アレか」
事もなげにそう言ってから、突然機敏に動いた。
気付けば私は、再び捕らえられていた。
彼の右手は私の後頭部に、左手はウエストに。
引き寄せられて、体の距離はゼロになる。
目の前には、切れ長の美しい瞳。
その瞳は、いつもと明らかに違っていた。
こんなにも色香を放つ彼の瞳を見たのは、
初めてだった……。
驚く私に、彼は言う。
「あんなのはキスと呼ばない。
ただのスキンシップだ。
キスという物は……これだろ」