ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
「マズイ……」と呟き、
久遠さんは腕の力を抜いた。
体重のほとんどを彼に預けていた私は、
支えの腕を失い、その場に尻餅をついてしまった。
久遠さんが素早くスーツのジャケットを脱いで、私に羽織らせた。
背中のファスナーはまだ開いたままで、
ブラのホックも外されたまま。
それを直すより、自分のジャケットを羽織らせた方が早いと考えたようだ。
私も焦り始めた。
壁だと思っていた一面は、電動式シャッターだった。
そのシャッターがスルスルと上がって行き、目の前に大ホールが広がった。
私達が侵入したドアと別に、直接ホールに繋がるシャッターがあり、
椅子やテーブルの出し入れができる仕組みになっていた。
裸電球一つの薄暗さから、急に眩しい光を浴びることになる。
「わっ! 人がいる!?」
椅子の塔を運び出そうとしたホテルマンが、私達に気付いて驚きの声を上げた。