ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
 


街は夕暮れから夜へと、変わろうとしていた。



空は紫掛かり、夜の帳が下り始める。



外灯が点灯し、ビル群の無数の窓辺も黄色い明かりを灯していた。



私を抱えたまま、久遠さんは歩道を走る。


走りながら、楽しそうに笑っていた。




「夏美、このまま走って帰るか?」




走って帰れる距離ではない。


男性の足でも、多分1時間以上かかってしまう。



でも、今引っ掛かるべきはソレではなく、

“帰る”の二文字だった。



同居の延長について、まだ答えを貰っていなかった。



期待にドキドキ胸を高鳴らせて、
こう聞いた。




「私の帰る場所は……どこですか?」



「俺の家」




二ヶ月の強制同居は終わった。



今日からは、自由意思での同居生活の始まりだ。




――――……





< 227 / 453 >

この作品をシェア

pagetop