ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
街は夕暮れから夜へと、変わろうとしていた。
空は紫掛かり、夜の帳が下り始める。
外灯が点灯し、ビル群の無数の窓辺も黄色い明かりを灯していた。
私を抱えたまま、久遠さんは歩道を走る。
走りながら、楽しそうに笑っていた。
「夏美、このまま走って帰るか?」
走って帰れる距離ではない。
男性の足でも、多分1時間以上かかってしまう。
でも、今引っ掛かるべきはソレではなく、
“帰る”の二文字だった。
同居の延長について、まだ答えを貰っていなかった。
期待にドキドキ胸を高鳴らせて、
こう聞いた。
「私の帰る場所は……どこですか?」
「俺の家」
二ヶ月の強制同居は終わった。
今日からは、自由意思での同居生活の始まりだ。
――――……