ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
酢豚の味
◇◇◇
翌日、久遠さんにエスコートされ……いや、
真横で見張られながら、出勤した。
一夜を共にしたあとも、スパイ疑惑は健在。
新ビール“夏美”についての情報を私が漏らさぬよう、
彼は隣で目を光らせていた。
わざとゆっくり歩けば、
彼も歩みを緩め、
小走りになれば、彼は早足で隣を歩く。
そうしてご丁寧に、私の所属部署、庶務課まで送ってくれた。
先に出勤していた三国主任に私を引き渡し、
やっと隣から離れてくれる。
「おい三国、しっかり見張れよ」
そう言い残し、彼は出て行った。
長身の後ろ姿が、完全に見えなくなるのを待って、
私は泣きついた。
「無理です!何とかして下さい!
いきなり同居なんて、どう考えてもおかしいです!
秘密を喋らなければ、問題ないですよね?
私、誰にも言いませんよ!
三国主任の目から見て、私はそんなに信用おけない人間ですか?」