ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
三国主任は記入中の伝票から目を離し、
私の苦情を聞いてくれた。
入社して1年と数ヶ月。
真面目に働き、これといった失敗やトラブルを起こさなかった。
そんな私を側で見てきた三国主任にまでスパイ扱いされては、悲しすぎる。
私の訴えを頷きながら聞いてくれた彼は、
困った顔してこう言った。
「田丸さんには、申し訳ないと思ってるよ。
だけど、久遠のビール研究への愛情が強すぎて……」
それは昨日、感じられた。
新ビール夏美について語る久遠さんは、
恍惚とした顔して、一人、悦に浸っていた。
いくらビール会社の社員と言え、
そんな人間はマレ。
というより、初めて見た。
三国主任は続けて言う。
「研究に関することになると、
久遠には常識なんて、通じないからさ……」
でしょうね。
問答無用で同居を決めるなんて、
それを非常識と呼ばずに、何と呼んだらいいのか分からない。