ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
求められているのだと、やっとはっきり自覚した。
自覚した後は急展開に気持ちがついて行けず、アワアワするだけ。
「く、く、久遠さん、あの、私……」
バスローブの合わせ目から侵入してきた彼の手に、慌てふためく。
体が密着し、私の耳には低く艶めいた声が忍び込んだ。
「俺はお前を抱きたい。
お前は、俺に抱かれるのは嫌か?」
嫌……じゃない。
卑怯者の黒川に犯されそうになった時、
久遠さんに処女をもらってもらえば良かったと後悔した。
私の初めての人は、久遠さんがいい。
それは嘘じゃない本当の気持ちなのに、
素直に抱いて欲しいと言えないのは、やっぱりあのポリシーが邪魔してくるせいだ。
将来結婚してくれる人じゃないと、恋愛してはいけない。
体の関係なんて、以っての外。
子供の頃から母に言い聞かされ、脳細胞に刻まれたポリシーと、
好きな人に抱かれたいと思う素直な感情。
その二つが胸の中で拮抗していた。