ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
「俺に抱かれるのは嫌か?」と聞いた彼の質問に、
黙り込んでしまった。
何も答えられない。
変なポリシーを持っていることも、ヘタレな私は白状できない。
そんな私に代わり、決定打を打ってくれたのは、久遠さんだった。
久遠さんはバスローブのポケットから四つ折にされた紙を取り出し、私にくれた。
広げてみるとそれは、正真正銘の婚姻届だった。
久遠さんの名前と住所、生年月日が記入され、押印されている他は、何も書き込まれていない。
驚いてベッドに身を起こした。
たっぷり10秒固まってから、恐る恐る聞いてみた。
「これを……私にくれるんですか?」
「ああ。
お前が出したい時に記名して、
役所に提出すればいい」
すぐには喜べなかった。
喜んでいいのか分からないほど、
混乱していた。
なぜ急にそんなことを……。
久遠さんは“結婚しない男"のはずでは?