ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
飛行機雲にエールを
◇◇◇
4月――。
街は春色に色づき、若者からお年寄りまで浮かれモード。
そんな浮かれた人々の中でも飛び抜けて浮かれているのは、この私。
浮かれたくもなるでしょう。
久遠さんの婚約者としてのポジションを、見事にゲットしたのだから。
朝、出勤する支度を整えてミカコさんのケージに近づく。
おがくずがこんもり盛り上がっているから、どうやらミカコさんは就寝中のご様子。
「行ってきます」と一声かけて、
玄関に向かった。
久遠さんは、黒い革靴に足を入れていた。
毎朝見ている姿だけど、出勤用スーツをその価値以上に見せてしまうルックスに、
鼻の下が伸びてしまう。
浮かれる私は、スーツの背中に抱き着いた。
「久遠さん、行ってきますのキスは?」
体に回した腕を解かれてしまった。
振り向いたハンサムフェイスには、呆れが滲んでいた。