ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
彼がくれたのは行ってきますのキスではなく、淡々とした指摘の言葉。
「お前も出勤だろ。
バカなこと言う暇があるなら、
さっさと靴を履け。
いつもの電車に乗り遅れるぞ」
うっ……。
王道の旦那様を見送る新妻シチュエーションをやってみたかっただけなのに、
付き合ってくれない。
頬を膨らませて不満をアピールして見せたが、
アッサリ無視され、先に家を出られてしまった。
「ああっ!
置いて行かないで下さい!」
慌てて玄関を出て鍵を閉め、
大きな背中を追いかける。
初体験の日以来、浮かれてテンション高めな私に対し、
久遠さんはクールにマイペースを保っている。
決してイチャイチャしてはくれない彼だけど、
そんなことで凹んだり落ち込んだりはしない。
だって私は、久遠さんの婚約者だから!