ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
床に座ったまま、慌てて顔の前に両腕をクロスさせ、身構えた。
これは、精一杯の防御のつもり。
すると、
「田丸さん、何やってるの?」
中からドアを開けた人物に、
そう声をかけられた。
何をやっているのかと聞かれたら、襲われないように防御して……
あれ?あれれ?
腕の隙間から覗くと、私に話しかけたのは、
“三国”という男性。
私と同じ庶務課の、29歳の主任さん。
つまり直属の上司だ。
三国主任には、いつも優しく仕事を教わっている。
ポッテリ体型で、柔和な人柄。
彼は羊にはなれても、オオカミにはなれないと断言できる。
丸メガネの奥の、人の良さそうな垂れ目が、心配そうに私を見ていた。
ガードしてしていた腕をそろそろと下ろして、広くはない会議室を見回した。
三国主任の他に、男性が2人いた。
男が3人いるというのは予想通りだったけど、
肝心の“夏美ちゃん”がいなかった。