ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
午前中、ミーティング室で、川原田さんについての噂話を、久遠さんは聞いてしまった。
私が嫁候補に上がっていると知り、明らかに不機嫌になっていた。
川原田さんは会社にとって大切なホップ農家さんなのだけど、
その辺りをきちんと理解してくれているのか……
一抹の不安を感じる。
「く、久遠さん……あの……」
「行くぞ。さっさとしろ」
問答無用で腕を取られて、立ち上がらされた。
白衣の裾をひるがえして、足早に歩きだした彼の背中を、慌てて追いかける。
ニヤニヤした目の事務員達に見送られて、私達はカントリー麦酒を後にした。
乗り込んだのは、いつもの社用の軽自動車。
久遠さんが運転席で、私が助手席。
乗るなり、「狭い」と車に文句をつける久遠さん。
それは仕方ない。
高身長で足が長過ぎる人用に、軽自動車は作られていないから。