ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
 


「私が運転しましょうか?」


と、助手席から声をかけると、意外そうな目で見られてしまう。




「お前、免許取ったのか?」



「4年前も免許だけは持っていました。
あの時はペーパードライバーでしたが」



「へぇ、知らなかった」



「私も久遠さんが車を運転する姿を初めて見ます。
乗れたんですね」



「青空ビールにいた時は、職業柄、勤務中もビールを口にしていたからな。

免許はあっても、乗れない日が多い」




1年と少しの同居生活で、お互いのことを知ったつもりでいたけど、

実際、知らないこともあったのだと、今更ながらに思う。



そして、お互いについて知らないことは、運転免許だけではなく、

離れていた4年で、もっと増えていることだろう……。



車は工場の駐車場を出て、交通量の少ない片道一車線の道路を、西へと走る。



窮屈そうにしながらも、久遠さんがそのまま運転してくれた。



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