ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
旦那さんも言う。
「新社長さんは、背ぇ高ぇなぁ?
はぁ〜、見だことねぇけど、東京のスカイツリーくらいあんでねぇの?」
「またお父さんは、はんかくせーこと言って。
せめて奈良の大仏様くらいにしねぇと、社長さんに失礼だべな?」
どっちもどっちなご夫婦に愛想笑いで答えてから、全員でホップ畑に入る。
川原田さんご夫婦が先頭で、久遠さん、私と続き、一番後ろが長男の耕平さんだ。
ホップ畑の真ん中で立ち止まり、久遠さんは黄緑色のホップの毬花を一つ取って、匂いを嗅いだり状態を確かめている。
「品種はアマリロですね。
cascadeタイプのホップ、エール系ビール向きだ。
これからビールの種類を増やそうと考えているのですが、シヌックやセンテニアルも栽培してもらえますか?」
いつも「いい生育状況ですね」としか言わない私と違い、
久遠さんはさすがに、専門的。
川原田さんご夫婦と、ホップの深い話を繰り広げる久遠さんを、
私は一歩下がって見ていた。