ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
 


川原田さんご夫婦が去った後には、呆然と立ち尽くす、息子さんが残された。



「あの、耕平さん……?」



私が呼び掛けると、ハッとした顔して、慌てて私に背を向けた。



「夏美さん……お幸せに……
う、ううっ……」



耕平さんが泣きながら、猛スピードで走り去る。



どうしよう……

35歳の男性を泣かせてしまった……。



罪悪感を感じるけど、悪いのは私じゃなく、久遠さん。



一人だけ平然としている彼に、苦情をぶつけずにはいられない。




「どうして、あんな言い方するんですか!

川原田さんは、大事なホップ農家さんですよ?

言うにしても、もっと言葉を選んでくれないと!」




会社のことを心配して抗議する、
ただの事務員の私に、

社長である久遠さんが、呆れたことを言う。




「あいつが大事なのか?
俺よりもか?」



「そんなことを言ってるんじゃないです!
同じ枠組みに入れて、どうするんですか!」




叱り付けている最中なのに、腕を取られて引き寄せられ、

気付けば抱きしめられていた。



「俺は何よりお前が大事だ。
会社よりも、研究よりもな」



< 436 / 453 >

この作品をシェア

pagetop