ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
川原田さんご夫婦が去った後には、呆然と立ち尽くす、息子さんが残された。
「あの、耕平さん……?」
私が呼び掛けると、ハッとした顔して、慌てて私に背を向けた。
「夏美さん……お幸せに……
う、ううっ……」
耕平さんが泣きながら、猛スピードで走り去る。
どうしよう……
35歳の男性を泣かせてしまった……。
罪悪感を感じるけど、悪いのは私じゃなく、久遠さん。
一人だけ平然としている彼に、苦情をぶつけずにはいられない。
「どうして、あんな言い方するんですか!
川原田さんは、大事なホップ農家さんですよ?
言うにしても、もっと言葉を選んでくれないと!」
会社のことを心配して抗議する、
ただの事務員の私に、
社長である久遠さんが、呆れたことを言う。
「あいつが大事なのか?
俺よりもか?」
「そんなことを言ってるんじゃないです!
同じ枠組みに入れて、どうするんですか!」
叱り付けている最中なのに、腕を取られて引き寄せられ、
気付けば抱きしめられていた。
「俺は何よりお前が大事だ。
会社よりも、研究よりもな」