ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
 


その言葉の甘さに浸れないのは、

責めるポイントが、もう一つ増えてしまったから。



午前中のミーティング室で、きちんと説明してもらえなかったことを、思い出してしまった。



アメリカでの研究を、途中で投げ出してきたんじゃないかと、怒った私に、

久遠さんは『投げ出していない』と言った。



それは本当なの?

今、研究より私が大事だと言ったくせに?


投げ出していないと言うなら、それを納得できるように説明してくれないと、

心からの笑顔で「お帰りなさい」とは言ってあげられない。



久遠さんの腕の中から、厳しい顔して説明を求めると、

今度はきちんと話してくれた。




「俺にしか出来ないことだけ、終わらせてきた。

あの研究自体は、実験、検証を繰り返して、長い年月を要するものだが、

実験するだけなら、誰にでもできる。


俺がやったのは、実験に対する予想結果の全てのパターンを上げて、

それについての考察と失敗した場合の解決策、次に何を考え、どうしなければならないかを、

誰もがわかるように、書き残したことだ」




誰もがわかるように……?

そう言われても、何を言っているのか、私にはいまいち理解できない。


首を傾げる私に、久遠さんはもっとわかりやすく説明してくれた。



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