ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
 


久遠さんの名誉を心配する私に、彼はこう言った。



「そんなものに、俺は興味がない。

研究することは好きだが、騒がれるのは嫌いだ。

化学者としての名声など、うっとうしいだけ。

美果子みたいに、それを欲しがる奴もいるがな」




久遠さんは……やっぱり変わり者だと思う。


名誉を欲しがる美果子さんの方が、人間らしくて理解しやすい。



青空ビールの会議室で、初めて久遠さんに会った時を思い出す。


あの時は、イケメンだけど『この人、変』というのが第一印象だった。



今もそれは、変わらない。


久遠さんは、変。


そして……なんて素敵な人なのだろう……。



日本に帰ってきたことを、怒る気持ちは完全に消えてなくなった。



14年前、美果子さんに騙され取り上げられた研究に、

久遠さんなりのケリをつけて帰ってきてくれた。



きっと大変だったと思う。

少し痩せたように見えるのは、そのせいかもしれない。



わずか4年という短い歳月でそれをやり遂げたのは、

私と一緒に人生を歩むため……

そう自惚れてもいいよね……?



< 439 / 453 >

この作品をシェア

pagetop