ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
久遠さんの名誉を心配する私に、彼はこう言った。
「そんなものに、俺は興味がない。
研究することは好きだが、騒がれるのは嫌いだ。
化学者としての名声など、うっとうしいだけ。
美果子みたいに、それを欲しがる奴もいるがな」
久遠さんは……やっぱり変わり者だと思う。
名誉を欲しがる美果子さんの方が、人間らしくて理解しやすい。
青空ビールの会議室で、初めて久遠さんに会った時を思い出す。
あの時は、イケメンだけど『この人、変』というのが第一印象だった。
今もそれは、変わらない。
久遠さんは、変。
そして……なんて素敵な人なのだろう……。
日本に帰ってきたことを、怒る気持ちは完全に消えてなくなった。
14年前、美果子さんに騙され取り上げられた研究に、
久遠さんなりのケリをつけて帰ってきてくれた。
きっと大変だったと思う。
少し痩せたように見えるのは、そのせいかもしれない。
わずか4年という短い歳月でそれをやり遂げたのは、
私と一緒に人生を歩むため……
そう自惚れてもいいよね……?