ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
白衣の背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。
久遠さんは私以上に強い力で、抱きしめ返してくれた。
「久遠さん、社長なのに白衣って、変ですよ?」
クスクス笑いながら、誰もが突っ込まなかったそれに触れてみると、
こんな返事が返ってきた。
「そうか? 俺にとっては、仕事着と言えば白衣なんだが……。
いいだろ。社長業務と平行して、新しい研究もすぐに始める。
カントリー麦酒に、研究部門を作りたい。
化学者としての俺の人生を、終わらせるつもりはない」
「久遠さんらしくて、素敵ですね……。
カントリー麦酒に、たくさんの新ビールが生まれそうです」
「ああ。ビール研究とそれから……もう一つ、研究したいことが増えた」
「え?」
体を少しだけ離されて、顔を見上げると、
切れ長の綺麗な瞳が、愛しそうに私を見つめていた。
「それは、夏美の研究だ。
泣いて、笑って、怒って……相変わらず忙しいお前の中身も。
4年前より美しさが増した外見も。
お前の全てを調べ尽くしたい。
なぜこんなにも愛しく思うのか……それも研究しないとな」
愛を化学的に証明するのは、無理じゃない?
そう言いたかったけど、唇が重なり言えなかった。
4年間の空白を埋めるように、深く深く口づける。
嬉しくて、愛しくて、私の目から涙が溢れた。
久遠さん、愛してくれてありがとう……。
求めてくれて、ありがとう……。
諦めずに追いかけてきてくれて、ありがとう……。
ホップの緑のカーテンが、夏の強い日差しを遮り、愛し合う私達の姿も隠してくれる。
日陰の涼しい風に、ホップの爽やかな香りが混ざっていた。
夢中で唇を重ねながら、心に誓った。
これからずっと、あなたと一緒に……。
【完】