ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
盛り上がり最高潮のクライマックスだったけど、
ピッとリモコンでテレビを消して、久遠さんを非難した。
「作り話だから感動できないなんて、久遠さんは心が貧しいんじゃないですか?
イケメンの癖に、ロマンチックを理解できないなんて、
残念感がハンパないですよ!」
不機嫌な私がそう言うと、久遠さんは濡れた髪を拭きながら、言い返してきた。
「俺は化学者だ。
物質の融合、分解、反応、相互作用、そんな物の中には、きちんと浪漫を感じている。
それでも俺を残念な男と言うなら、そんな男に惚れたお前も、残念な女じゃないのか?」
久遠さんに、怒っている様子はなかった。
呆れたような顔して、いつもの通り淡々と、意見を返してきただけ。
化学者の性質というか、久遠さんはいつも理屈っぽい。
その性格を分かっていても、ついムキになって怒ってしまうのが私だ。
「残念な女で、悪かったですね!
そうですよ、私なんて弱虫だし、すぐ怒るし、可愛くないし、馬鹿だし、何の取り柄もないダメ女ですよ!
久遠さんと釣り合ってないのは、
十分過ぎるほどわかってます。
好きになって、どうもすみませんでした!」
「なぜそうなる?
そんな事を、俺は一言も言ってないぞ?
おい、夏美、聞いているのか?」
「聞きたくないです!
私、もう寝ますから、話し掛けないで下さい。
今日は寝室じゃなくて、別の部屋で一人で寝ます。
お休みなさい」
―――……