ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
昨夜のケンカ……というか、私一人むくれている状況は、朝がきても直らなかった。
久遠さんのお弁当も作らず、先に一人で出社して、そして今、
可愛くない態度を取ってしまって……私ってダメな奥さんだよね……
と、馬鹿みたいに自己嫌悪に陥っているのだ。
昨夜の私達の事情を知った吉本さんは、
「ノロケにしか聞こえないわね。
ご馳走さま」
と、少々呆れの混ざった苦笑いを返してくれた。
千花ちゃんは、
「私もいつか素敵な旦那様を捕まえて、そんなケンカをしてみたい!」
と、なぜか羨ましがる。
真剣に落ち込んでいる私の気持ちは、誰にも理解してもらえないのだと知ったところで、
休憩室に駒野事務長が入ってきた。
「夏美さん、これ、久遠社長の所に持って行って、チェックしてもらって?
昼休みが終わってからでいいけど、午後イチで頼むね」
渡されたのは、夏期事業報告書。
プリントアウトされた分厚いA4紙の束を受けとってから、どうしようと考える。
「あの、吉本さん、すみませんが私の代わりに……」
久遠さんと顔を合わせるのが気まずくて、頼もうとしたのに、
全てを言い終わらない内に、断られてしまった。
「だーめ!駒野事務長は、夏美ちゃんに頼んだんだから、私はやりませんよー」