ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
「食べますか?」と聞くと、
久遠さんは意外にも、素直に頷いた。
しかも、
「悪いな」という、まともな言葉まで付けて。
気を良くした私は、
手早く二人分の料理を、ダイニングテーブルに並べた。
彼と向かい合って座る。
お腹が空いていたので、
パクパクもぐもぐ、私は勢いよく食べはじめた。
一方彼は、酢豚を一口食べて、
「マズイ」と言った。
私の手から、箸が滑り落ちる。
作ってもらって、
マズイだと……?
酢豚は初挑戦じゃない。
今まで何度も作ってきた。
母から教わった、普通の家庭の味だと思っている。
この味の酢豚を、24年間食べ続けてきたのに、
マズイとはどういうことだ!?
酷すぎるイケメンに、怒りをぶつける。
「酢豚とは、こういう物なんです!
久遠さんは、酢豚が嫌いなだけじゃないですか?
まるで私が料理下手みたいに言うなんて……失礼しちゃいます!」