ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
ポケットにスマホをしまった。
空の台車を押して、Uターン。
隣で堂浦さんが、楽しそうにペチャクチャ喋っているけど、
全く聞いていなかった。
頭の中に久遠さんの顔を描き、
そのハンサムフェイスに、パンチを一発繰り出した。
帰ったら、苦情を言ってやろうか?
久遠さんがスパイ扱いするせいで、こっちの仕事がやりずらいと。
言ったところで、現状を変えてくれるとは思えないけど。
蛍光灯を2本持ち、堂浦さんには脚立を持たせて、
エレベーターで5階に上がった。
久遠さんの部署、研究開発部の前を通り過ぎ、
東廊下へ。
5階フロアは、研究開発部と容器包装研究部の、
二つの部署しか入っていない。
どちらの部署も、ドアは固く閉ざされ、
廊下はやけに静かだ。
通行人もまばらで、ほぼ無人と言ってもいい、寂しい廊下だった。