ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
驚きすぎて、何もできなかった。
ただ、自分の心臓を忙しく働かせるだけ。
至近距離で見上げる彼の顔は、
見惚れるほどに美しい。
美しいけど、喉仏や輪郭、骨張った部分に男性を感じてドキドキした。
堂浦さんが、引っ張られた後ろ髪を気にしながら言う。
「久遠〜、いきなり何すんのよ〜。
オレッちの髪、抜けたじゃん。
ハゲたらどーすんの?」
床を見ると、蛍光灯の破片に混ざり、
確かに目立つ茶髪が、10本ほど散らばっている。
結構な力で、引っ張られたのが分かった。
文句を言われても、久遠さんは無表情。
謝るのではなく、こう言った。
「エステルの精製過程で、頭皮の血流を上げる成分を見つけた。
半年前から、部長の頭で実験中だ。
増毛効果が証明されたら、育毛剤にしてお前にくれてやる」
「マジ?ヤッター……って!
お前のとこの、にょにょ村(野々村)部長、ハゲのままじゃん!
半年実験してんの?
全然効かないよ、ソレ!」