ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
靴の中にガラスの破片。
そういう理由なら、腕の中にいるのも仕方ないよね……。
自分の心に言い訳して、恥ずかしさをごまかした。
彼の白衣をキュッと掴む。
本当は、もう少しこうしていたかった。
逞しい腕の中は、守られている気持ちがして、
居心地が良かった。
白衣からは、花のようなフルーツのような香りがした。
それはきっとエステルの香り。
ビール酵母を発酵させた時に出る、香り成分。
心地よさと、速い鼓動を感じながら考えていた。
彼が私を助けてくれた理由は、
何だろうと……。
運ばれた場所は、研究開発部の部長室、
彼の部屋だ。
そこでやっと下ろされて、
椅子に座らされた。
久遠さんは、私のパンプスの中をハケで払い、
ガラス片が残っていないかルーペでチェックしてから、履かせてくれた。