ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
今この瞬間、堂浦さんへの怒りは完全に消えた。
それは、別の怒りで上書きされたせいだ。
別の怒りとはもちろん、今の久遠さんの発言について。
私を助けてくれた意味は、全てビール開発絡みだった。
私の身を、これっぽっちも心配していなかったのだ。
ドキドキを返せ!と言いたい気分。
不機嫌MAXの私は、
彼のデスクの回転椅子をクルリと回し、背を向けた。
頬っぺはパンパン。
ハムスターが、頬袋に餌を溜め込むのに似た状態だ。
「どうした?
やっぱ怒ってんのか?」
真後ろに、久遠さんの声がする。
「怒ってないです!」
「嘘つけ。声が怒ってるだろ。
これだから女って奴は……」
彼の呆れた物言いに、私の怒りは加速する。
椅子をもう半回転させ、
向き直る。
キッと睨み上げて、彼を脅した。