ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
「な、何で……」
驚く私に、久遠さんは言った。
「俺の方が足が長い。
先回りするのは簡単だ」
足の長さが違うのは、言われなくても見れば分かる。
それにしたって、早過ぎでしょう。
私が家を出た時、彼はまだ寝起きスタイルだったのに、
ちゃんと着替えて、ここにいる。
でも、急いでいた形跡は残されていた。
髪には、直しきれていない寝癖が。
着るものを、選ぶ余裕もなかったみたい。
上は出勤用の白いワイシャツ姿で、暑いから長袖を肘まで折り返している。
下は家でよく履いている、
黒のデニム。
その辺にあった物に、急いで着替えたという格好をしていた。
それでも、駅利用者の誰より格好よく見えてしまうのは、
スタイルと顔がいいから。
私は一時間かけて、頑張ってオシャレしてもこの程度なのに、
イケメンって、ずるいよね……。