ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
振り向かずに、彼に言う。
「私はこれが観たいんです。
嫌なら、中まで付いてこないで、
ロビーで待っていたらどうですか?
暗闇にまぎれて、私が社内の誰かと密会するかも知れませんけど。
それと、もう一度言いますけど、
久遠さんとお出かけしている訳じゃないので、
話しかけないで下さいね」
目の前のチケットカウンターの女性が、
私達のやり取りを見て、首を傾げている。
「お客様、こちらの映画で席をお取りしても宜しいですか?」
「はい。一人分で。
この後ろの男性は、連れではありませんので」
さっさと自分の分のチケットを購入して、
カウンターから離れた。
「今の女と同じヤツ」
久遠さんが慌てて、ラブストーリーの映画チケットを購入していた。