ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
隣のテーブルの若い女の子が、
「ツイートしちゃお」
とスマホを操っている。
今日一日で、久遠さんの画像が、
SNS上に氾濫しそうな気がした。
ほどなくして、生クリームとフルーツたっぷりの、パンケーキが運ばれてきた。
私はその甘さを堪能する。
一方久遠さんは、珈琲しか頼んでいなかった。
店内は冷房が効きすぎて寒いほどなのに、
彼のこめかみからは、汗が一筋流れていた。
きっと冷汗。
そう思って見ていると、目が合ってしまう。
彼が身振り手振りで、
「そっちのテーブルに移動していいか?」
と聞いてきた。
両手でバツを作り、それを断る。
久遠さんなんて、困ればいいのだ。
ビールビールと、新ビール夏美のことばかり心配して……
私だって夏美なのに……。
私のことを、信用も心配もしてくれない久遠さんなんて、
もっと困ればいい。