ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
時刻は夕暮れ時。
空にニョッキリ突き出したビル群が、夕陽を反射させていた。
オレンジ色に色付く街で、駅に向かい帰り始める人が増えていた。
一方私は大通りを、駅と逆方向に歩いていた。
真後ろに、今日何度目かの
「おい」という声を聞いた。
「いつ帰るんだよ?」
疲れた声で、そう聞かれた。
「話しかけないでと、言っているでしょう?
まだ帰りませんよ。小丸百貨店を見ていないので。
あそこに入っているお店を、全部見たら帰ります」
「マジかよ……」
背後の深いため息に、ニンマリ笑う。
彼より優位に立てた気がして、
いい気分だった。
小丸百貨店の女性服売り場を、
くまなく見て歩いた。
久遠さんは疲労の濃い顔して、
足取り重く付いてくる。
彼の限界が近づいているのが分かった。
完全勝利まで、あと一歩!
久遠さんに不敵な笑みを向けてから、最後に入ったお店は、
ランジェリーショップだった。