ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
納得できずに、責めるように由香に言ってしまった。
「天才が何で、うちの会社でビール作ってるのよ!?
そんなに賢いなら、世界で活躍すべきでしょ!」
「え〜?そこまでは知らないよ。
青空ビールに来る前は“JSM財団研究所”っていう、
すごそうな名前の職場にいたみたいだけど。
うちの会社に乗り換えた理由を知りたいなら、本人に聞いてみなよ?」
由香に言われて、
ああ、そういう理由だった……
と思い出した。
小丸百貨店の休憩所で聞いた、
久遠さんの打ち明け話を思い出していた。
研究所時代、同僚で恋人だった女性に研究成果を盗まれたと言っていた。
全てが嫌になって、日本に逃げてきたのかな……
そんな風に解釈した。
一人で納得し、その悲しい答えにため息をついてしまう。
すると由香が、私のため息の意味を勘違いした。
ニヤニヤしながら、からかわれてしまう。
「なに切ないため息ついてるのよ。
せっかく恋してるんだから、
もっとルンルンしなさいよ?」
「ち、違う!
恋じゃないから!」