ぎゅっと抱きしめて~会議室から始まる恋~
『真面目で優しくて、将来良い夫になりそうな人じゃないと、恋をしてはいけない』
私のポリシーになっているこの言葉は、母の受け売り。
私には父親がいない。
離婚や死別ではなく、生まれた時からいなかった。
それは、母が未婚で私を生んだせい。
妻子ある男性に騙されて母は妊娠してしまい、女手一つで私を産んで育ててくれた。
そんな母が、まだ幼い内から私に繰り返し言い聞かせた言葉がソレ。
母の人生の教訓が私に植え付けられ、現在に至るというわけだ。
どうにも変えられないポリシーと、
結婚相手に向かなそうな久遠さんに、ときめいてしまう心。
その狭間で困っている私に、
由香は度々「もったいない」と言ってくる。
「せっかく天才イケメンと同居してるのに。
夏美がそんなんじゃ、恋愛にならないじゃない。
もったいないな〜」
今日も“もったいない”と締めくくる由香の言葉に、
「そうそう、俺っちもそう思うんだよね〜」
そんな言葉が被せられた。