ユキの果て
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「遅い」
あたしにはおはようも、遅くなってごめんも、言う隙さえ与えられず、ヒカリは開口一番そう言った。
「そ、そんな言い方しなくても……!」
「5分前行動が基本だと思うんだけど?」
「う。その、ごめんなさい」
軽く落ちこむと、ふぅとため息ひとつ。
「こんなところで時間食ってたら映画に間に合わなくなる」
行くぞ、と腕を引かれて歩き出す。
さりげなく、いつも車道側を歩いてくれるヒカリはすごく優しいと思う。
同時に不器用だとも。
黒のPコートに身を包んだヒカリをそっと見上げた。
いつも通りの無表情の鼻が寒さで赤くなっている。
あたしとヒカリが一緒に映画に行くことになったのは、2日前の金曜日。
調理実習の次の日のこと。
突然、ヒカリが去年見たファンタジー映画の続編のチケットを持ってきたのだ。
もらったとのことだった、前売りの特典付き。
続編が出てるなんて知らなかったあたしはそれを持ってるはずもなく、誘いに乗ったということ。
だってストラップ、欲しかったんだもん。
男子とふたりで出かけるなんて、その、デートみたいで気にはなったんだけどね。
去年一緒に見に行った人はユキだから、もう行けないんだしいいかなって。