ユキの果て




「これで今年のバレンタインは作れるものができたと思ったのにな」



ヒカリや委員長だけでなく、他の班の人にも止められた。

お菓子作りに関する信用がなさすぎる。



「お前あれだろ、スノーボールだけは作れるんだろ。それにしろよ」

「そうだけど、」

「楽しみにしてる」

「っ!」



どうしてスノーボールは作れるって知ってるの、と訊こうとした言葉はヒカリに遮られ、喉の奥に留まったまま。



『楽しみにしてる』



ユキも。

ユキも、そう言っていた。

あたしからのバレンタインを楽しみにしてるって。



料理が下手なことも、毎年美味しくなかったことも、わかっていてそう言ってくれた。



ヒカリも、同じことを言うんだね。



「あ、結晶。
もうすぐケーキ焼けるって。
一緒にメープルミルクの準備をしよう」

「……うん」



鍋を絶え間なくかき混ぜながら、漂ってくる甘い香り。

滲みそうになる涙をあたしはひとり、堪えていた。






< 9 / 30 >

この作品をシェア

pagetop