ユキの果て
「これで今年のバレンタインは作れるものができたと思ったのにな」
ヒカリや委員長だけでなく、他の班の人にも止められた。
お菓子作りに関する信用がなさすぎる。
「お前あれだろ、スノーボールだけは作れるんだろ。それにしろよ」
「そうだけど、」
「楽しみにしてる」
「っ!」
どうしてスノーボールは作れるって知ってるの、と訊こうとした言葉はヒカリに遮られ、喉の奥に留まったまま。
『楽しみにしてる』
ユキも。
ユキも、そう言っていた。
あたしからのバレンタインを楽しみにしてるって。
料理が下手なことも、毎年美味しくなかったことも、わかっていてそう言ってくれた。
ヒカリも、同じことを言うんだね。
「あ、結晶。
もうすぐケーキ焼けるって。
一緒にメープルミルクの準備をしよう」
「……うん」
鍋を絶え間なくかき混ぜながら、漂ってくる甘い香り。
滲みそうになる涙をあたしはひとり、堪えていた。