水平線の彼方に(下)
「へぇー、同級生なのかい」

伯母さんの声に反応した。

「はい…小・中と同じ学校で。クラスが一緒だったのは中二と中三だけなんですけど…」

まだ少し顔が赤い。彼女の話に耳をすまして聞いてた。

「よく宿題見せてくれって言われてたんです」

彼女の言葉にお兄ちゃんが身を乗り出した。

「花穂、あんま余計なこと言うな」
「えっ…だってホントの事だし…」

別に悪い意味じゃないと話す彼女にあれこれ言い訳してる。
私や姉が知らなかった日々が、二人の中にはあるようだ。

「仲良いね。あんた達」

伯母さんの言葉に二人が黙った。
テル伯母さんはお兄ちゃんの様子を横目で見ながら、しみじみとした口調で語った。

「萌の時と違って、角がなくなったね…。花穂さんのお陰かね、今の真ちゃんがあるのは…」

穏やかな言い方に納得する所は確かにある。
お兄ちゃんのことをずっと世話してきた伯母さんだからこそ、その変化にいち早く気づいたのかもしれない。


姉と付き合ってた頃のお兄ちゃんは、どこかピリピリと神経を尖らせてる様な所があった。
自分の夢を貫き通そうと、どこか無理してるような所もあった…。

(でも今は…… )

彼女と話してるお兄ちゃんを眺めた。
私の知る限り、今日のような顔をしてるのを見たことがない。
明るくて朗らかで、優しい横顔…。心の底から落ち着いてる感じ。

(こんなに穏やかでいられるのも、この人のお陰なの…?)

気に入らない事ばかりが目について、イライラと気持ちが荒れてくる。
お兄ちゃんに選ばれた彼女のことが許せなくて、羨ましい反面、憎らしくもあった…。


「キラ、あんたやっぱり家に帰った方が良いんじゃない?」

車から下りると伯母さんはそう言って私の顔色を伺った。

「間に割り込もうなんて少しでも考えるんじゃないよ。あの二人には、そんな隙間は無いからね」

考えてることを見透かされてる。
テル伯母さんは最初から、私の気持ちを知って帰るよう勧めてたんだ。

「あんたは萌じゃないんだから、その髪型もお止め。似合わないよ」

外見だけ取り繕っても無駄。そんな風に言われた気がした。

「私の勝手でしょ!バイト続けるのもパーマかけるのも!(…お兄ちゃんのことを好きでいるのも…!)」

最後の言葉は呑み込んだ。今はまだ、ネタバラシには早過ぎる。
怒ったように頬を膨らます私に呆れながらも、勝手におし!と背を向ける。

(なによ!そんな簡単に諦めるもんか!私、本気でお兄ちゃんのこと好きなんだから…っ!)

意地を張ってるみたいだった。
でも、彼女の存在を知っただけで、想いを終わらせることなんて到底できない。

(それができてたら最初から、ここには来てないもん…!)

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